「総絞り」とは一体どのような着物ですか?

「総絞り」は着物の布地全体を「絞り染め」という技法で染め上げた着物のことです。絞り染めとは、布地を糸で括ったり器具で挟んだりして防染した後に染料で染める技法のことをいいます。染め方や使用する器具・糸によって様々な名前で呼ばれており、例えば京都で受け継がれてきた絞りの代表的な技法のひとつとして「京鹿の子絞り」があります。染め上げた模様が子鹿の斑点に似ていることからこのように呼ばれています。

このような絞りの技法は約50種類以上にのぼり、それぞれの技法ごとに専門の職人がいるほど熟練の技術が必要とされます。絞り染めを布地全体に施した総絞りの着物は、一粒づつ括っていく細かい作業が必要なため、大変な手間暇をかけて作られます。今日では技術革新が進み、機械で作られる総絞りの着物も少なくありませんが、昔はその全ての作業を手作業で行っていました。

先に紹介した京鹿の子絞りは現在も分業で作られており、大きくは「括り」「染め分け」「染め」と呼ばれる3つの工程を経て完成します。しかし着物の色数が多い場合や括りが複雑である場合などは、これらの工程を何度も往復することも珍しくなく、手塩にかけて作られた分だけその価値は高くなります。

上記のように高価という印象が強い総絞りですが、必ずしもすべてがというわけではありません。以前は総絞りに麻(あさ)や紬(つむぎ)など様々な生地が使われていたのに比べ、現在は木綿やポリエステルといった化学繊維を用いた総絞りの着物も多く、比較的安価で手に入れることも可能となりました。

余談ですが、このように豪華絢爛である総絞りの着物は、江戸時代に発令された服装の贅沢を禁止する「奢侈禁止令(しゃしきんしれい)」に触れるため、幾度となく取り締まりの対象となるほどの贅沢品でした。禁止令が出されているとき、江戸の人々はこっそりと着物の裏地を華美にしていたという逸話があります。いかに当時の人々がおしゃれをすることに力を入れていたかが分かるエピソードではないでしょうか。